クリソベリルの国内初黒星の話と、川田将雅のGI連敗の話…
はじめに…
もろもろの事情であまり時間が取れず、サッと書いたコラムになります。いつものことではありますが、あっちこっちに飛んだりで読みづらい文章になっています。この点、ご容赦ください…【泰】
先週の日曜(12月7日)に行われたダート最強馬を決めるチャンピオンズカップ(GI)。勝ったのは戸崎圭太騎乗で4番人気のチュウワウィザードで、断然の1番人気に支持された川田将雅騎乗のクリソベリルは4着に終わった。
クリソベリルの敗北に関し、ネット上では一部のファンが不満を漏らしている…。
GIとなると特別参加の馬券購入者もいるため、注目される要素がある馬には必要以上に人気が集まりがち。結果は別にして、クリソベリルの単勝140円というのは、個人的にはオッズが低すぎたと思う。詳しいことはここでは書かないが、菊花賞のコントレイル=単勝110円とか、ジャパンカップのアーモンドアイ=220円なども十分に異常な配当だった。
一部で騒ぎになっていること。それは「GIの川田だから勝たせられなかった」、「川田と音無秀孝調教師がレース後に『(クリソベリルが)本調子になかった』という内容のコメントを発した」、この2点になる。
ちと話がそれるが、GIだろうと重賞だろうと下級条件だろうと、馬を勝たせるのは大変なこと。調教師サイドの視点からは、基本的に体質が弱い競走馬を競馬に耐えられる状態まで仕上げるのは簡単ではない。
ジョッキーサイドからの視点では、知能レベルが低く、どのくらいの距離を走るかわからないし、勝つことを目標としたりもしない競走馬を御して勝利にみちびくのは難題である。
戻って川田…。今年はJRAのGIで17戦0勝であり、騎乗馬、成績は以下のようになっている。
高松宮記念 ダノンスマッシュ 10着 3人気 モズスーパーフレア
大阪杯 ブラストワンピース 7着 3人気 ラッキーライラック
桜花賞 リアアメリア 10着 4人気 デアリングタクト
天皇賞(春) エタリオウ 10着 6人気 フィエールマン
もろもろの事情であまり時間が取れず、サッと書いたコラムになります。いつものことではありますが、あっちこっちに飛んだりで読みづらい文章になっています。この点、ご容赦ください…【泰】
先週の日曜(12月7日)に行われたダート最強馬を決めるチャンピオンズカップ(GI)。勝ったのは戸崎圭太騎乗で4番人気のチュウワウィザードで、断然の1番人気に支持された川田将雅騎乗のクリソベリルは4着に終わった。
クリソベリルの敗北に関し、ネット上では一部のファンが不満を漏らしている…。
GIとなると特別参加の馬券購入者もいるため、注目される要素がある馬には必要以上に人気が集まりがち。結果は別にして、クリソベリルの単勝140円というのは、個人的にはオッズが低すぎたと思う。詳しいことはここでは書かないが、菊花賞のコントレイル=単勝110円とか、ジャパンカップのアーモンドアイ=220円なども十分に異常な配当だった。
一部で騒ぎになっていること。それは「GIの川田だから勝たせられなかった」、「川田と音無秀孝調教師がレース後に『(クリソベリルが)本調子になかった』という内容のコメントを発した」、この2点になる。
ちと話がそれるが、GIだろうと重賞だろうと下級条件だろうと、馬を勝たせるのは大変なこと。調教師サイドの視点からは、基本的に体質が弱い競走馬を競馬に耐えられる状態まで仕上げるのは簡単ではない。
ジョッキーサイドからの視点では、知能レベルが低く、どのくらいの距離を走るかわからないし、勝つことを目標としたりもしない競走馬を御して勝利にみちびくのは難題である。
戻って川田…。今年はJRAのGIで17戦0勝であり、騎乗馬、成績は以下のようになっている。
高松宮記念 ダノンスマッシュ 10着 3人気 モズスーパーフレア
大阪杯 ブラストワンピース 7着 3人気 ラッキーライラック
桜花賞 リアアメリア 10着 4人気 デアリングタクト
天皇賞(春) エタリオウ 10着 6人気 フィエールマン
ヴィクトリアマイル ダノンファンタジー 5着 6人気 アーモンドアイ
オークス リアアメリア 4着 8人気 デアリングタクト
ダービー ガロアクリーク 6着 7人気 コントレイル
安田記念 アドマイヤマーズ 6着 6人気 グランアレグリア
宝塚記念 ブラストワンピース 16着 4人気 クロノジェネシス
スプリンターズS ダノンスマッシュ 2着 3人気 グランアレグリア
秋華賞 リアアメリア 13着 2人気 デアリングタクト
菊花賞 ガロアクリーク 9着 10人気 コントレイル
天皇賞(秋) ダノンプレミアム 4着 6人気 アーモンドアイ
エリザベス女王杯 リアアメリア 7着 7人気 ラッキーライラック
マイルCS アドマイヤマーズ 3着 5人気 グランアレグリア
ジャパンカップ グローリーヴェイズ 5着 4人気 アーモンドアイ
チャンピオンズC クリソベリル 4着 1人気 チュウワウィザード
参戦したレースの勝ち馬を見ると、アーモンドアイ、コントレイル、デアリングタクト、グランアレグリア、クロノジェネシス、フィエールマン、ラッキーライラックと、GIで複数回の勝利がある超強豪ばかり。これではたまったものではない。
高松宮記念のダノンスマッシュは、馬が得意としない道悪だった。唯一、1番人気馬への騎乗だったクリソベリルも、終わってみてほぼノーチャンスだったことがわかった(詳しくは後述する)。
そう、今年の川田に関して、これまでのGIで勝つ可能性は極めて低かった。誰が乗っても結果は同じである。
田中勝春はGIで139連敗した。三浦皇成はGIに180戦以上騎乗し、いまだ未勝利である。この2人に関してはどちらもレベルの低いジョッキーだが、GIを勝つのがいかに難しかを示す材料にはなると思う。
川田が一流のジョッキーであることは疑う余地のない事実。全国リーディングはルメールに次いで2位となっていて、12月6日現在の2人のデータを並べてみた。
ルメール 川田将雅
勝利数 193勝 162勝
勝 率 .264 .285
連対率 .436 .470
3着内率 .547 .572
単回収率 75.01% 84.47%
1人気回数 368回 285回
1人気勝率 .350 .428
前置きとして、「ルメールが乗っているから」、「川田将雅が乗っているから」という理由で人気になる部分が少しはある。勝利数には31の差があるが、連対率等の数字はすべて川田が上。1番人気馬に騎乗したのは、ルメールの方が83回も多くなっている。何のことはない、リーディング順位に差があるのは「ルメールの方が勝てる可能性が高い馬に多く乗っている」というだけのことだ。
1番人気馬での勝率も川田の方が優秀。特筆すべきは単勝回収率で、人気馬に乗るケースが多いのに84.47%というのは驚異的な数字と言っていい。ルメールの75.01%も上々である。
また話がそれて申し訳ないが、固定ファンが単勝を買っていると思われる藤田菜七子は、単勝回収率が37.50%とかわいそうな数字になっている。
川田は調教師や馬主から大きな信頼を受けている。依頼が集まり、乗ってもらうのも難しいというのはよく聞く話だ。私は馬乗りではないが、腕っぷしの強さとか、馬を御す能力の確かさとか、さすがに見ていればわかる。
先週に阪神で行われたチャレンジカップでは、レイパパレを駆って勝利を収めた。我が強く、線も細くて完成前の牝馬…。無敗馬なので単勝160円と過剰人気になっていたし、大変な状況だったと言える。
実戦に行くと予想された通り行きたがってしまい、ヒヤヒヤものの道中になった。それでも直線で川田が何とか押し、最後まで保たせた。武豊とか福永祐が乗っていたら負けていただろう、と普通に思う。
川田は確かな腕を持ったジョッキー。これを“私見だろう”と言うなら、別にそれでいい。
なお、これまで予想コラム内では、ジョッキーのレベルや特長について触れてきた。乗れないジョッキーは「乗れない」とはっきりと書いている。今後もこのスタンスは崩さないでいきたい。
次にチャンピオンズカップにおける、クリソベルの状態面に関する話…。先にも書いたが、結論から言えば「勝てるようなデキになかった」ということになる。
540キロ級の巨漢馬。これまで海外を含めて10戦しているが、チャンピオンズカップを使う前までの最短のレース間隔は中8週だった。チャンピオンズカップは中4週弱で、“初めて経験する詰まった間隔”だったことになる。
11月3日に大井のJBCクラシックを強い競馬で快勝。その後、初めて時計になるところ乗ったのが19日で、坂路(栗東)で51秒4だった。順調だったからとも取れるが、今にして思えば少し違和感を感じる。太くなっていたので、早い段階で強く追ったのかもしれない。また、ここでやりすぎて疲れが出た可能性もある。
1週前には川田が跨ってしっかりと追われ、52秒6-12秒4でダンビュライトと同入。数字は悪くないが、モタモタしたところがあった。最終追いにも川田が跨り、54秒0-12秒5でサンライズノヴァに少し遅れている。一杯に追われたわけではないが、川田がうながしても進んでいかない感じだった。
もともと攻めではそう動かないタイプだし、普段から調教を見ているトラックマンは「何か違うけど、大丈夫なのでは…」と思った人が多かったかもしれない。
3日(木)の計量は562キロで、JBCクラシックの542キロと比べて20キロ増。そして、レース当日は554キロだった。
4日に坂路で15-15を乗り、レース前日となる5日にも坂路に入れて58秒5-12秒8と強めに追われた。言うまでもなく、これは異例の調整。藤沢和雄厩舎とか普段からこんな調整をすることがある厩舎ならともかく、音無秀孝厩舎ではそうあることではない。仕上げるのに苦労していたのだろう。
もともと巨漢馬は難しい。冬場ともなると、汗をかかずに絞りづらいし、寒くて馬が硬くなるので、よりやっかいだ。安藤勝己元騎手は、チャンピオンズカップが終わったあとにツイッターで「馬体重然り明らかに精彩欠いた。初めて間隔詰めて調整難しかったんやろな」と書いている。
音無師も川田騎手もレースに向けてのコメントでトーンは上がらなかった。正直、「レース前の段階で負けた言い訳をしていた」という感じである。勝つとは思っていなかったはずだ。
ただ、不安を吐露しつつも「勝てるだろう」というような話をしていた。特に大きいレースの場合、状態に問題があったとしても走る前に「不安がある」とは言いづらい。今回は2人とも正直に話した方だと思う。
レースが終わって、川田は「今の具合でよくここまできた。能力の高さで4着まで辛抱してくれた」と話し、音無師は「追い切りの動きからパッとしなかったし、前日にやらないといけないくらいだったから…」とコメントした。
これが原因でネット上で叩く人間が出てきたわけだが、そもそも戦前は威勢が良く、負けたあとで「本調子にはなかった」と発言するというのは昔からしょちゅうある話。今回のクリソベリルの敗退でああだこうだ言われても、「今さら?」という感じがある。
川田、音無の両氏の立場に立って考えると、人気を裏切って負けはしたものの、重圧から解放されてホッとしているのではないだろうか。
悪く言うわけでなく、「ツイッターとかで叩いているのは、ホースマンたちの苦労をきちんと知らない人なんだろうな」と思う。競走馬は基本的にひ弱。人間の7倍も8倍もの体重があるのに、脚の太さは人間と変わらない。脚元、トモなどがしっかりしない馬が多いのは当然だろう。内臓も弱いし、怪我や病気であっけなく死んでしまう。
チャンピオンズカップの前日、名牝スイープトウショウが亡くなった。享年19、腸捻転だっという。スワーヴリチャードの仔を宿していて、前日まで元気だったとか。非常に痛ましい報であり、ただ、競馬の世界の日常である。
競走馬を仕上げるのがいかに大変かは、一口馬主で何頭か馬を持ったことがある人はわかっているかもしれない。牧場にいて体が固まらず、なかなか厩舎に入る段階までいかない。入厩できたとしても、攻めを強めていく過程ですぐに体にガタがきて牧場に戻ってしまう。そうこうしているうちに引退、ということを経験しているだろう。
あと、育成ゲームのダービースタリオンでは、管理馬が前触れもなく死んだりする。これは虚構とか誇張ではない。繰り返しになるが、競馬の世界は甘くないし、また、残酷なものである。
今一度、大きな馬の話を。体が大きいと大変というのは、人間と一緒である。アスリートも大きな人は怪我をしやすい。プロ野球選手が筋トレをしてムキムキになり、怪我を離脱してしまう…。そんなことがあると、元プロ野球選手の解説者が「筋トレをするからだ!」と叱りつける。まあ、よく見る光景だ。
メジャーリーグで活躍するダルビッシュ有は筋トレ推奨派。先の日本シリーズでソフトバンクホークスがジャイアンツをこてんぱんに負かしたしたことに関しても、「体が違う」と話している。
でも、ダルビッシュにしてもソフトバンクの選手にしても、体格が良かったとしてもマッチョマン風になっているわけではない。詳しいことはわからないが、古い人が言う筋トレとは根本から何か違うのだろう。
ムキムキになって壊れやすくなったといえば、わかりやすいのが元プロ野球選手の清原和博だ。体がスマートだった時の方が、シャープに動けていたし、スイングスピードが速かった気がする。ボリュームアップしてからどこか鈍重になり、故障も多くなった。
ムキムキ清原の対比として挙げたいのがイチローである。彼が必要以上に体を大きくすることに懐疑的なのは、みなさんもご存知と思う。イチローはとにかく怪我をしなかった。コンパクトな方が体にかかる負担は少ないし、コントロールもしやすいのだと思う。
競走馬の世界でイチローに当てはまるのがディープインパクトと言えるかもしれない。ディープの馬体重は、デビュー戦(1着)の時が452キロで、引退レースの有馬記念(1着)の時が438キロ。トモが少し甘そうだったし、関係者が楽だったはずはないが、競走馬につきまとう「故障しそうで心配」と思わせるところが少なかった。
「馬体が大きいと頑強でパワーがある」と思い込んでいる人もいるようだが、実際は逆である。例えば巨漢馬は芝の道悪が苦手な場合が多いし、調教でも力の要る馬場だと動けなかったりする。あと、緩さがある大きな馬は斤量に敏感だ。
書きたいことはもっとたくさんある。でも、要点は書けたのでこのぐらいで締めたい。ネット上で多く見られる「状態が悪いなら使うべきではない」という意見についても触れたかったが、これはまたの機会に…。
ジョッキーの力量、競走馬の仕上げについてのお話は、予想コメントやブログ、ツイッターで書いていきたいと思う。
最後になって恐縮だが、チャンピオンズカップを勝ったチュウワウィザード、戸崎圭太騎手、大久保龍志調教師ら関係者には拍手を送りたい。
オークス リアアメリア 4着 8人気 デアリングタクト
ダービー ガロアクリーク 6着 7人気 コントレイル
安田記念 アドマイヤマーズ 6着 6人気 グランアレグリア
宝塚記念 ブラストワンピース 16着 4人気 クロノジェネシス
スプリンターズS ダノンスマッシュ 2着 3人気 グランアレグリア
秋華賞 リアアメリア 13着 2人気 デアリングタクト
菊花賞 ガロアクリーク 9着 10人気 コントレイル
天皇賞(秋) ダノンプレミアム 4着 6人気 アーモンドアイ
エリザベス女王杯 リアアメリア 7着 7人気 ラッキーライラック
マイルCS アドマイヤマーズ 3着 5人気 グランアレグリア
ジャパンカップ グローリーヴェイズ 5着 4人気 アーモンドアイ
チャンピオンズC クリソベリル 4着 1人気 チュウワウィザード
参戦したレースの勝ち馬を見ると、アーモンドアイ、コントレイル、デアリングタクト、グランアレグリア、クロノジェネシス、フィエールマン、ラッキーライラックと、GIで複数回の勝利がある超強豪ばかり。これではたまったものではない。
高松宮記念のダノンスマッシュは、馬が得意としない道悪だった。唯一、1番人気馬への騎乗だったクリソベリルも、終わってみてほぼノーチャンスだったことがわかった(詳しくは後述する)。
そう、今年の川田に関して、これまでのGIで勝つ可能性は極めて低かった。誰が乗っても結果は同じである。
田中勝春はGIで139連敗した。三浦皇成はGIに180戦以上騎乗し、いまだ未勝利である。この2人に関してはどちらもレベルの低いジョッキーだが、GIを勝つのがいかに難しかを示す材料にはなると思う。
川田が一流のジョッキーであることは疑う余地のない事実。全国リーディングはルメールに次いで2位となっていて、12月6日現在の2人のデータを並べてみた。
ルメール 川田将雅
勝利数 193勝 162勝
勝 率 .264 .285
連対率 .436 .470
3着内率 .547 .572
単回収率 75.01% 84.47%
1人気回数 368回 285回
1人気勝率 .350 .428
前置きとして、「ルメールが乗っているから」、「川田将雅が乗っているから」という理由で人気になる部分が少しはある。勝利数には31の差があるが、連対率等の数字はすべて川田が上。1番人気馬に騎乗したのは、ルメールの方が83回も多くなっている。何のことはない、リーディング順位に差があるのは「ルメールの方が勝てる可能性が高い馬に多く乗っている」というだけのことだ。
1番人気馬での勝率も川田の方が優秀。特筆すべきは単勝回収率で、人気馬に乗るケースが多いのに84.47%というのは驚異的な数字と言っていい。ルメールの75.01%も上々である。
また話がそれて申し訳ないが、固定ファンが単勝を買っていると思われる藤田菜七子は、単勝回収率が37.50%とかわいそうな数字になっている。
川田は調教師や馬主から大きな信頼を受けている。依頼が集まり、乗ってもらうのも難しいというのはよく聞く話だ。私は馬乗りではないが、腕っぷしの強さとか、馬を御す能力の確かさとか、さすがに見ていればわかる。
先週に阪神で行われたチャレンジカップでは、レイパパレを駆って勝利を収めた。我が強く、線も細くて完成前の牝馬…。無敗馬なので単勝160円と過剰人気になっていたし、大変な状況だったと言える。
実戦に行くと予想された通り行きたがってしまい、ヒヤヒヤものの道中になった。それでも直線で川田が何とか押し、最後まで保たせた。武豊とか福永祐が乗っていたら負けていただろう、と普通に思う。
川田は確かな腕を持ったジョッキー。これを“私見だろう”と言うなら、別にそれでいい。
なお、これまで予想コラム内では、ジョッキーのレベルや特長について触れてきた。乗れないジョッキーは「乗れない」とはっきりと書いている。今後もこのスタンスは崩さないでいきたい。
次にチャンピオンズカップにおける、クリソベルの状態面に関する話…。先にも書いたが、結論から言えば「勝てるようなデキになかった」ということになる。
540キロ級の巨漢馬。これまで海外を含めて10戦しているが、チャンピオンズカップを使う前までの最短のレース間隔は中8週だった。チャンピオンズカップは中4週弱で、“初めて経験する詰まった間隔”だったことになる。
11月3日に大井のJBCクラシックを強い競馬で快勝。その後、初めて時計になるところ乗ったのが19日で、坂路(栗東)で51秒4だった。順調だったからとも取れるが、今にして思えば少し違和感を感じる。太くなっていたので、早い段階で強く追ったのかもしれない。また、ここでやりすぎて疲れが出た可能性もある。
1週前には川田が跨ってしっかりと追われ、52秒6-12秒4でダンビュライトと同入。数字は悪くないが、モタモタしたところがあった。最終追いにも川田が跨り、54秒0-12秒5でサンライズノヴァに少し遅れている。一杯に追われたわけではないが、川田がうながしても進んでいかない感じだった。
もともと攻めではそう動かないタイプだし、普段から調教を見ているトラックマンは「何か違うけど、大丈夫なのでは…」と思った人が多かったかもしれない。
3日(木)の計量は562キロで、JBCクラシックの542キロと比べて20キロ増。そして、レース当日は554キロだった。
4日に坂路で15-15を乗り、レース前日となる5日にも坂路に入れて58秒5-12秒8と強めに追われた。言うまでもなく、これは異例の調整。藤沢和雄厩舎とか普段からこんな調整をすることがある厩舎ならともかく、音無秀孝厩舎ではそうあることではない。仕上げるのに苦労していたのだろう。
もともと巨漢馬は難しい。冬場ともなると、汗をかかずに絞りづらいし、寒くて馬が硬くなるので、よりやっかいだ。安藤勝己元騎手は、チャンピオンズカップが終わったあとにツイッターで「馬体重然り明らかに精彩欠いた。初めて間隔詰めて調整難しかったんやろな」と書いている。
音無師も川田騎手もレースに向けてのコメントでトーンは上がらなかった。正直、「レース前の段階で負けた言い訳をしていた」という感じである。勝つとは思っていなかったはずだ。
ただ、不安を吐露しつつも「勝てるだろう」というような話をしていた。特に大きいレースの場合、状態に問題があったとしても走る前に「不安がある」とは言いづらい。今回は2人とも正直に話した方だと思う。
レースが終わって、川田は「今の具合でよくここまできた。能力の高さで4着まで辛抱してくれた」と話し、音無師は「追い切りの動きからパッとしなかったし、前日にやらないといけないくらいだったから…」とコメントした。
これが原因でネット上で叩く人間が出てきたわけだが、そもそも戦前は威勢が良く、負けたあとで「本調子にはなかった」と発言するというのは昔からしょちゅうある話。今回のクリソベリルの敗退でああだこうだ言われても、「今さら?」という感じがある。
川田、音無の両氏の立場に立って考えると、人気を裏切って負けはしたものの、重圧から解放されてホッとしているのではないだろうか。
悪く言うわけでなく、「ツイッターとかで叩いているのは、ホースマンたちの苦労をきちんと知らない人なんだろうな」と思う。競走馬は基本的にひ弱。人間の7倍も8倍もの体重があるのに、脚の太さは人間と変わらない。脚元、トモなどがしっかりしない馬が多いのは当然だろう。内臓も弱いし、怪我や病気であっけなく死んでしまう。
チャンピオンズカップの前日、名牝スイープトウショウが亡くなった。享年19、腸捻転だっという。スワーヴリチャードの仔を宿していて、前日まで元気だったとか。非常に痛ましい報であり、ただ、競馬の世界の日常である。
競走馬を仕上げるのがいかに大変かは、一口馬主で何頭か馬を持ったことがある人はわかっているかもしれない。牧場にいて体が固まらず、なかなか厩舎に入る段階までいかない。入厩できたとしても、攻めを強めていく過程ですぐに体にガタがきて牧場に戻ってしまう。そうこうしているうちに引退、ということを経験しているだろう。
あと、育成ゲームのダービースタリオンでは、管理馬が前触れもなく死んだりする。これは虚構とか誇張ではない。繰り返しになるが、競馬の世界は甘くないし、また、残酷なものである。
今一度、大きな馬の話を。体が大きいと大変というのは、人間と一緒である。アスリートも大きな人は怪我をしやすい。プロ野球選手が筋トレをしてムキムキになり、怪我を離脱してしまう…。そんなことがあると、元プロ野球選手の解説者が「筋トレをするからだ!」と叱りつける。まあ、よく見る光景だ。
メジャーリーグで活躍するダルビッシュ有は筋トレ推奨派。先の日本シリーズでソフトバンクホークスがジャイアンツをこてんぱんに負かしたしたことに関しても、「体が違う」と話している。
でも、ダルビッシュにしてもソフトバンクの選手にしても、体格が良かったとしてもマッチョマン風になっているわけではない。詳しいことはわからないが、古い人が言う筋トレとは根本から何か違うのだろう。
ムキムキになって壊れやすくなったといえば、わかりやすいのが元プロ野球選手の清原和博だ。体がスマートだった時の方が、シャープに動けていたし、スイングスピードが速かった気がする。ボリュームアップしてからどこか鈍重になり、故障も多くなった。
ムキムキ清原の対比として挙げたいのがイチローである。彼が必要以上に体を大きくすることに懐疑的なのは、みなさんもご存知と思う。イチローはとにかく怪我をしなかった。コンパクトな方が体にかかる負担は少ないし、コントロールもしやすいのだと思う。
競走馬の世界でイチローに当てはまるのがディープインパクトと言えるかもしれない。ディープの馬体重は、デビュー戦(1着)の時が452キロで、引退レースの有馬記念(1着)の時が438キロ。トモが少し甘そうだったし、関係者が楽だったはずはないが、競走馬につきまとう「故障しそうで心配」と思わせるところが少なかった。
「馬体が大きいと頑強でパワーがある」と思い込んでいる人もいるようだが、実際は逆である。例えば巨漢馬は芝の道悪が苦手な場合が多いし、調教でも力の要る馬場だと動けなかったりする。あと、緩さがある大きな馬は斤量に敏感だ。
書きたいことはもっとたくさんある。でも、要点は書けたのでこのぐらいで締めたい。ネット上で多く見られる「状態が悪いなら使うべきではない」という意見についても触れたかったが、これはまたの機会に…。
ジョッキーの力量、競走馬の仕上げについてのお話は、予想コメントやブログ、ツイッターで書いていきたいと思う。
最後になって恐縮だが、チャンピオンズカップを勝ったチュウワウィザード、戸崎圭太騎手、大久保龍志調教師ら関係者には拍手を送りたい。